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昨日の続き。


 午前1時半に帰宅した我ら兄妹。
 父母は明日仕事であるため、既に就寝している。
 はて、そう言えば……

「おまえ、仕事は?」
「8時には出やなあかんねん」

 なぜそこまで。
 さすが妹、恋に生きる女。その情熱にはただただ圧倒されるばかりだ。
 「男にモノ作るのは嫌い」
 と言いながら、影でこのように努力する姿は、何やら胸を打つ物がある。
 微力ながら手伝うのも悪くあるまい。









 買ってきたパイシートをまな板の上に乗せ、麺打ち棒で引き伸ばす。2mmくらいの厚さまで伸ばして、型抜きでハート型にくり抜き、表面に卵黄を塗る。
 真ん中に板チョコを砕いた物を乗せ、同じくハート型に抜いた生地をかぶせて、端を指で閉じていく。
 表面にもう一度卵黄を塗り、スライスアーモンドを乗せたら、あとは焼くだけだ。

 が……

「おい、麺打ち棒とまな板にくっつきまくりやで」
 パイシートの温度が30度を上回ったため、粘り気が出てきたようで、まな板や麺打ち棒に引っ付いてしまうのだ。これでは伸ばすことすらままならない。
 他の準備をしていた妹だったが、その惨状を見るなり言った。
「げ、片付け面倒くさそう」
 いや、論点はそこじゃない。
 その後、妹の発想でまな板にはサランラップを、サランラップと麺打ち棒には片栗粉をまぶすことに。
 二人で黙々と作り続けていたのだが……いざ、焼く時になって更に問題が発生。
 クッキングシートがない。
 母は料理の人、お菓子作りの人なので、クッキングシートくらい必ずあると思っていたが、甘かったようだ。
「アルミホイルで代用できへんか」
「アホやな、火花飛びまくるん知らんの?」
 む、そう言えばそうだった。
 とりあえず妹がコンビニに向かい、私が家中を探してみるが……収穫なし。
 そして――。

「デパート行こ」

 再 出 発 。
 何度も足を運ぶことを嘆く妹。
 だがな、妹。隣りで黙々と付き合う男をなんだと思っている?今年も肉親以外にチョコ貰えない(確定)、知らない男に贈られるチョコ作りを手伝う、こ の 私 を 。

 おまえ、愚痴る前に詫びろ。

 心の乾いたまま、クッキングペーパーだけを買って家に戻り、オーブンでブツを焼き始めたその時刻は3時半。
 疲れと眠気と戦いながら、オーブンを200度に温め、15分焼く。焼きあがったら今度は180度まで下げ、8分焼いて出来あがりだ。
 オーブンを開け、パイを取り出すと……なんともよい香りが。
 思わず感嘆の声を洩らす兄妹。
 疲れなど忘れてはしゃぎ回り、不出来な物を選んで小さなお茶会を催す。それは今までの苦労が実を結んだような、素晴らしい出来あがりの物だった。
 深夜であることも忘れてハイタッチ。
 『パイの実』というお菓子を知っていれば、あれを思い出してほしい。まさしくそういう物で、できたての香ばしさと生地中央のわずかなもっちり感が、大量生産の菓子を遥かに凌駕している。
 そして、何と言っても最高のスパイスは苦労であるから、この瞬間だけは「菓子職人にもなれる」と自惚れた合った。
 満面に喜色をたたえ、第二段を焼き始める妹。これで準備した分は全て焼き終える。
 が、また問題発生。

 オーブンを見守っていた私が振り返ると……妹が寝てやがる。

 これは 誰が 誰に 贈るものだ?



 …………

 ……………………

 …………………………………………



 深夜4時半。
 バレンタイン当日に手作りのチョコを作るもののふが独り(22歳:彼女なし)



 全てが終わった時、空は白み始め、それと共に私の心も真っ白に燃え尽きていた。
 材料を冷蔵庫に入れ、洗い物を終え、私もようやく寝れるとその場に横になると――両親の目覚ましが鳴る。

 もう、諦めました。

 父母を起こし、朝食にたらこを焼き、味噌汁を作り、ご飯を盛る。
 連られて起きてきた3匹の猫どもに餌をやり、新たに出た食器を洗い、両親を見送ったあと風呂に入る私。ボロボロです。
 風呂からあがり、やっと寝れると横になると――妹の目覚ましが鳴る。
 ドリフのコントか、これ?
 後は繰り返し。妹の食事を作り、茶を入れ、洗い物……
 この日記の元を書いたところで倒れるように眠り……次に目を覚ました時刻は22時。



 涙なしではいられない、悲しいバレンタインの話、終了。
by udongein | 2004-03-25 16:16 | 地元


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