昔、影で触れた物を、まるで実際に触れているかのように感じることがあった。
自分の手の影を誰かの体に重ねると、ほんのりと温もりが得られるような、不思議な感覚だ。
これは誰しも感じたことはないだろうか?
もっともわかりやすい例といえば、影踏みだ。
幼少の頃、誰かに影を踏まれると妙な悪寒と共に振り返る、というような状況があった。
踏まれているという嫌な感触が、確かにまとわりつくのだ。
気のせいと言われればそれまでだったので、忘れていたが……最近のニュースで、それが科学的検証を得たというので、驚いた。
あれは気のせいではなかったのだ、と。
以前から「人間の脳は、自分の周囲の空間と肉体のとの境界を、無意識に設定している」というのは証明されていたが、影もその境界として認識しているということが明らかになったらしい。
これは影が変形している時には起こらず、逆に変形していない状態なら、自分と他人との影を識別することすら可能なのだそうだ。
盲人の人が杖を自分の延長のように感じる、というのは有名な話である。
なんにせよ、過去自分が感じていた不確かな何か、が証明されるというのは、なんとも気持ちがいいことだ。