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烈火の炎(安西信行)


 はい、今さらではありますが、良くも悪くも割と有名なこの作品を、記憶を掘り起こしながらレビューさせていただきたいと思います。
 最後に読んだのがかなり昔なので、至らない部分はご了承ください。


 さてこの作品ですが、私の評価としてはあまりよくありません。
 男性読者に対する圧倒的な媚びと、台詞や展開の恥ずかしさが、私の好みに合わなかったためです。
 実際レビューのために一巻から読み直そうとしましたが、挫折。なんでしょうね、この読み辛さというか臭さというか。
 ただ、一度は最後まで読ませてしまうような妙な魅力もありました。
 今回のレビューでは「話全体」「キャラクター考察」に分けて、面白さとつまらなさの両方を語らせていただきます。
 なお、パクリ疑惑に関しては一切触れません。





○話全体の考察
 主人公は忍者に憧れる少年、花菱烈火。憧れるのは構いませんが、火薬使って喧嘩したり、惚れた女の子を「姫」とか呼んでみたりするのは、ちょっとやりすぎです。
 姫を守ると決めてから、何かと彼女の周りをうろつきまくる主人公ですが、主人公との関わりで錐持った姉ちゃんに引っぱたかれたり、怪しげなおばさんに付け回されたり、あげくキチガイじみたおじさんに目をつけられたりと、大局で見れば全ての元凶は主人公な気がしてなりません。
 ツッコミだすと切りがないので軽く済ませておきますが、大まかな流れとして

・主人公、仲間&ライバルと出会う
・武闘会
・オジサマ変化
・オジサマ究極変化

 といった感じに捉えております。
 武闘会はバトル漫画としては必須(というか編集部には必須)のようですので「なぜ武闘会なのか」といったベタなツッコミはいたしません。
 建前としては「プライドの高い敵さんが、人海戦術ではあまりに相手が可哀相だから、フェアな場で完全に叩き潰そう」というのが狙いです。
 これは弱者に機会を与えることで敵味方共に心象をよくできることと、フェアな条件で相手を叩きのめすことで相手を再起不能にすることができるという二点で、敵側にもメリットがあります。
 君主論には「目的のために手段を選ぶな」というのがありますが、それが後編の狂ったオジサマです。彼を表に出す前に紅麗のいい所や悲劇的な過去を見せ、後編のオジサマと対比させることで、初期の紅麗に対する嫌味を消すことに成功しています。
 同じ理由で、なぜ終盤でも敵が一人で戦うのか(例外はあるが)という理由も説明できます。
 敵のプライドと、相手へのダメージ。そして魔道具に大掛かりな物が多く、連携に向かないことと、人員の不足などが原因でしょう。後は性格と生い立ちですね。
 ではなぜ、味方はわざわざバラバラに行動しているのか…………えっと、若いから?
 流れ全体としては悪くないつくりだと思います。



○キャラ別考察
 この話のダメなところに、魔道具の使い方があります。
 魔道具。魅力的な響きです。レアアイテムで、魔法の力が使える。蒐集癖のある方は、割とツボだったんじゃないでしょうか。
 そして、道具を主用途以外にもさまざまな使い方で使えるのが人間です。
 では、この話の登場人物は?
 見せ場がないこともありますが、ほとんどのキャラが使い方が一辺倒なんですね。私の好きな小説に「悪魔のミカタ」というのがありますが、あれはひとつのアイテムを使用者がそれはそれは巧妙に、慎重に使って目的を達成しようとします。あれくらいしっかりと描けばもっと強力になった魔道具や、見せ場の増えたキャラがいたのではないでしょうか。
 敵の一人一人やサブキャラはいちいち覚えていませんので、主要メンバー5人について語り、どういった魔道具の使い方が望ましかったのか考察させていただきます。



○花菱烈火
 主人公。手から炎を出す力を持っています。
 彼はそのために、魔道具を持っていません。必要ないですしね。
 彼の能力は八竜の出現によって、更に面白味を増します。これはこの話で一番工夫されていた部分じゃないでしょうか。
 「竜」という、存在自体が高いポテンシャルを持つ物の使役。それが主人公の炎の源であるという設定や、竜の一匹一匹に特別な能力があること。更にそれが歴代炎術師のなれの果て、と後付けの設定に大きな矛盾もなく、作品を面白くしています。
 更に竜の炎を合体させたり、使い方を考えたり、と好印象な部分が多いです。
 最後まで展開にメリハリがあった、いい主人公だと思います。
 ただ、ラストのあの竜はどうよ? 同じ竜の炎を使う紅麗の「紅」が復活しないのに姫だけ復活するのは、主人公特権でしょうか。


○水鏡
 後ろの名前忘れました。持ち物は液体を刃に変える魔道具、円水(漢字も忘れた)。
 主人公と対極の能力。正反対の性格、肉親が死んでいることなど、彼の設定も中々素敵です。
 紅麗を敵のライバルとするなら、水鏡は味方のライバルと言えるでしょう。
 惜しむらくは、剣の技に飛び道具が目立ったこと。飛び道具を使うのは構いませんが、剣術使いでありながら剣でとどめをさした場面を思い出せません。その辺り、ONE PIECEのゾロに通じるものがあります。毎回必殺技でトドメ刺してると、それ以外の部分が過程になってしまう。この作者(に限ったことじゃないけど)の問題点のひとつです。
 液体を得るための工夫などは色々あって面白かったですね。


○風子
 駿足少女。道具は風を操る魔道具、風神と、細々したやつ(ぉ
 彼女は足の速さを風でブーストした高機動がウリなわけですが、描写の仕方からかそれはいまいちだった印象も。短距離の疾駆が多かったからと、集中線の描き方を他のキャラと一緒にしていたのが原因と思われます。
 魔道具は「風」という不定形な物な上、非常に高いポテンシャルを持つ魔道具。よって土門や水鏡よりも更に「魔法的な」戦い方ができたはずなのですが……どうもそういう場面に記憶がありません。風の技のほぼ全てが飛び道具、というところもマイナスです。
 他4人が近接攻撃主体だったから、彼女の飛び道具主体というのはキャラ立てとして間違っていません。しかし、ならばもっと彼女は連携や遠距離戦闘というのをやらせるべきだったのではないか、と思います。高速戦闘、空も飛べる、攻撃方法は飛び道具、ときて拳が届く距離で戦う理由がわかりません。
 不満の多いキャラでしたね。


○土門
 筋肉馬鹿。道具は土の指輪、嘴王、鉄丸。
 彼はこの作品には珍しい「道具を使っているタイプ」です。
 この男の持ち味は「筋肉」と「タフさ」。動きが遅かったり雑だったり、と典型的なパワーファイターですね。
 そして彼の終着は必ずとろくて雑だけど一発食らったらアウトの拳を叩き込むことです。
 魔道具による攻撃があくまで「殴るまでの過程」なわけです。これは彼のキャラとしては正当な描き方だと思います。後述の小金井とタイプが似ていますが、「過程」を使いこなす好例がこいつです。
 殺しても死にそうにない馬鹿というポジションを最後まで確立していたことにも好感が持てます。他のキャラがことある毎に泣いたり叫んだりする中、一人だけ弱音を吐かない馬鹿であるのも、しっかりしたキャラ付けの印象を強めているのかもしれません。
 彼が主人公と並んで、一番真っ当なキャラではないでしょうか。


○小金井
 こいつが一番ダメだったんじゃないでしょうか。
 土門を一撃までの「過程」を使いこなす好例とするなら、こいつは「過程」を「過程」にしか見せられなかった悪例です。
 彼の道具は金剛暗器。普段は薙刀でありながら、分解、組み立てすることで薙刀を含めた5タイプの武器に変化可能。
 が、2~4の型が全て5に至るまでの手順でしかないというのが、この武器を決定的にダメにしています。
 毎回1で始めに戦い、戦闘中に2~4に変化、5の魔弓で止め、というパターンは常に一定。6の型が出てからは6の型一辺倒、と救い様がありません。
 この武器の1番から5番までの重要度を等価にして、5で必ずトドメを刺すのではなく1~5までを敵によって使い分ければ、土門以上に戦闘を面白くできる強いキャラになったと思います。
 それだけに滑稽に見えてしまい、キャラも印象に残らなくなった不幸のキャラです。



 こんなところでしょうか。
 姫については文字通り「ピーチ姫」といった感じなので、語ることはありません。
 とにもかくにも読者に対する媚びの目立った作品ですが、それを除けば見るべきところは多いです。
 設定を活かしきれていない部分、単調な部分、後は台詞や展開が「クサい」部分を直せば、もっと面白くなったと思います。
 このレビューを読んで「読まなくていいや」と思うのではなく、読んでみて上記の話を感じ取ってくれれば、この作品の面白さ、磨かれずに埋もれていった面白さの可能性を理解できると思います。
 それでも抜けきらないこの嫌味が何なのかは、私にも説明できません。
by udongein | 2004-11-10 12:57 | レビュー


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